最近、ありがたいことに獣医大学生がちらほら実習に来てくれるようになりました。彼らはそれぞれ、自分が将来どんな仕事に就きたいのか、どんな獣医師になりたいのか、を模索しながら夢と希望を持って実習に来てくれています。
実習生が来たときに、僕が必ず聞く質問が一つあります。
それは、『どんな獣医さんが一番いい獣医さんだと思う?』です。
それに対して実習生たちはみな、考えに考えて答えを絞り出してくれます。
『ちゃんと診れる獣医さん』
『正しく診断を下せる獣医さん』
『治療でミスをしない獣医さん』
『インフォームドコンセントをしっかりできる獣医さん』
『う~ん。わかりません。』
など、様々な答えが返って来ます。
僕はまず、
『本来は、優れた技術と豊富な知識を持った獣医さんが一番いい獣医さんだと思うよ。』
と答えます。
この『本来は』というのは、実際はちょっと違うかもしれないのではないかということです。
その上で、『実は、正しくコミュニケーションを取れる獣医さんが一番いい獣医さんだと思うよ。』と教えます。
もちろん、優れた技術と豊富な知識を持った上で、正しくコミュニケーションを取れたら言うことありません。
人間の医療においても、『問診8割』と言われている医師の方がおられるように、問診が重要であることは自明です。
しかし、馬たちはほとんどの場合、自分からどこが痛いか、どこに違和感があるか、などを伝えてはくれません。
そこで、馬たちと最も多くの時間接している、厩務員さんが代弁してくれるということです。つまり、僕らが問診する相手は厩務員さんということになります。
僕は診察する際に、なるべく多くの情報を厩務員さんから聞き出そうと思っています。
『飼い葉食べています?』
『乾草は食べますか?』
『汗はかいていますか?』
『水は飲んでいますか?』
『ボロの感じはどうですか?』
『普段と何か変わったことありますか?』
といった具合にです。
しかし、普段からコミュニケーションを密に取れていないと、なかなか厩務員さんも心を開いて話してはくれません。聞き出したい情報も、なかなか聞き出すことができません。
そのためにも、普段から正しくコミュニケーションを取れる獣医師でありたいと思っています。
テレビドラマ「ドクター・ホワイト」の特別編でも、小手伸也演じる真壁院長が
『患者の心の声に、耳を澄ませ!』
と言っていました。
僕は人と話すことがそこまで得意な方ではないので、何も考えずに人とコミュニケーションを取れる方をとてもうらやましく思うと同時に、自分は自分のコミュ力で、馬たちや厩務員さんの心の声に耳を澄まして、日々診察していきたいと思っています。
2022.4